เข้าสู่ระบบ実家がけして裕福ではないことは重々わかっていた。
だからこそ、そこから逃げるように東京へ出て来た。後を取る兄がいることに胡坐を掻いて、見て見ぬふりをしてきたのだ。
自分が楽しく毎日を過ごしている間、兄と義姉は、自分たちを犠牲にして、工場と両親を支えて生活を繋いできた。そして、両親は、それをわからせないように自分に気を使ってきたのだ。
痛いほど、みじめで、情けなかった。
「信也も、もうやめちくれ。蒼也に帰って来てもろうたんな、こん鉄工所を閉むる、そん相談がしたかっただけや。お前にも関係あるけんな」
「閉めたところで、こんな額の負債は返せんじゃろ?」
目の前の書類の額面が現実味が無さ過ぎて、それを見つめてそうこぼす。
億を超えるその額は、この工場の土地を売っても到底返せる額ではない。
「まぁ、破産したら返すものはなくなるし、儂があと何年かして死んだら、その保険金でいくらか穴埋めでくるかもしれん」
冗談か本気かわからないような表情で父親がぽつりと言う。自分の親に
サウナの前で待ち合わせ、蒼也と顔を合わせた時、聖の表情は昨夜とは大違いだった。そっけないふりをしようと頑張ってはいるが、昨夜までの張りつめたものは、もう感じられなかった。蒼也もその聖の空気にうれしそうにしていて、その表情に胸が温かくなった。聖とキヨがサウナの玄関へ向かう背中を追いながら、蒼也と並んで歩いた。「少しでも言葉を交わせて、よかった」独り言のように小さく呟く蒼也の目元は、穏やかに和らいでいた。私は、そっと彼の指に自分の指を絡めた。――8年前あの時。 もし彼を引き止めていたら。 もし宮崎まで追いかけていたら。そんな「もしも」を何度も考えてきた。でも――結局、私たちはこうしてまた出会い直した。だからきっと、あの恋は終わっていなかったのだ。 途切れたのではなく、ただ時間をかけて再び動き出すのを待っていただけ。「朱莉、なんでそんなに嬉しそうにしてるの?」 「ん? 私嬉しそうなの?」 「すごくニヤニヤしてるね」「ん~だって、蒼也と一緒にいられるから」顔を見上げて笑うと、蒼也は耳まで赤くしながら、満面の笑みを返した。 その笑顔を見ていると、胸の奥があふれそうなほど熱くなる。「蒼也、大好き」そう彼に向かって笑いかけると、蒼也が思わず顔を寄せてきた。その時、聖とキヨの呼ぶ声が飛んできた。蒼也が、我に返り苦笑いしながら耳元で囁く。「二人きりになったら……覚悟しといて」二人のもとへ歩き出した背中に、「望むところだ」と心の中で返す。これから先も、きっと迷う。 不安になって、泣くこともあるだろう。それでも彼となら、そのたびに向き合い、何度でも恋をし直せる。
翌朝。台所で味噌汁の湯気に気持ちを慰められる。 こういう時こそ普段通りの朝食を整えた方がいい気がして、炊きたてのご飯と卵焼き、焼き鮭を並べた。普通過ぎてお正月とは思えないのが残念だが。「朝ごはん、できたよ」聖の部屋に向かって声をかけると、ぼんやりとした様子の聖とボサボサ頭のキヨが出て来た。 小さく、おはよ、と言いながら聖が席に着く。 瞼の赤みは引いていて、まだ少し腫れぼったいけれど、表情は幾分落ち着いて見えた。「……お腹、すいた」ぼそりと呟く声に、少しだけほっとする。「ほらな」 キヨが肩をすくめて笑う。 「オレが言った通りやろ。飯食わんと気持ちも整理つかんから」三人で食卓を囲んだ。しばらくは箸の音だけが響いたけれど、やがて聖が口を開いた。「……あーちゃん。昨日はごめんなさい」ご飯を見つめたまま、ぽつりと言葉を落とす。「ちょっと子どもみたいな拗ね方だったと思う」 「子どもなんかじゃないよ。ひーちゃんは、自分の気持ちを言っただけ。大事なことだったと思う」 「……でも、あーちゃん、ものすごく困ってたじゃん」そう言って俯く聖の横顔を見て、私は小さく首を振った。「私は、ひーちゃんが正直でいてくれてよかったって思ったよ」その言葉に、聖は少しだけ顔を上げる。「本当に?」 「うん。大事なことを隠したままでずっといたら、すごく悲しかったと思う」 「あーちゃん。怒ってない?」 「怒るわけないじゃん」聖の表情に笑みが浮かぶ。その様子を伺っていたキヨが声をあげる。「よーし、昨日の重い空気はこれで終わりにしよ」そして、茶碗を置き、にかっと笑う。「オレ、チョー久しぶりの東京やし、観光したいねんけど。 三人でどっか出かけへん?初詣とか。 聖、甘いもんでも食べに行ったら元気になるんちゃう?」 「……子ども扱いしないでよ」聖がむくれたように
「ひーちゃん。ちょっとは落ち着いた?」うつむく聖にそう声をかける。沈黙が流れ、リビングの壁掛け時計の秒針の音ばかりが妙に響く。「さっきは、ごめんなさい」ようやく聖が口を開いた。抱えていたクッションを強く抱きしめ、視線を落としたまま続ける。「僕……あんなこと言うつもりじゃなかった。ずっと、思ってたことは本当なんだけど……でも、あんな風に言ったら、あーちゃんを困らせるだけだって、わかってたのに」どう言葉をかければいいのか迷う。弟として大切にしてきた存在に、思わぬ形で向けられた告白。驚きと戸惑い、そして彼を傷つけたくない気持ちが胸の中で絡まる。「さっき、聖と話してて。オレももっと聖の気持ちを聞く時間を持ってやれば良かったって思った。悪かったな」キヨが聖の頭を撫でながら、ぼそりと呟く。「でもな聖。姉ちゃんに言うてしもたってことは、もう自分の中で整理せなあかん。逃げずにな」「……わかってるよ」聖は唇を噛み、頷いた。 その姿に、そっと声をかける。「ひーちゃん。私にとって、ひーちゃんは大切な存在。弟とか、家族とか、そういう言葉で表せないくらい大事な存在なの。でもね……結婚して夫婦になる相手かっていうと、私の中ではちょっと違うな」聖の瞳が揺れた。「じゃあ、僕は、あーちゃんの家族にはなれないんだ。一生」その言葉にゆっくりと首を横に振る。「ひーちゃんは、私のたった一人の家族だよ。 お互いに支え合ってきた大事な大事な家族」言葉を選びながら、どうか、この気持ちが聖に伝わって欲しいと思いながら話す。「家族になるって、ひーちゃんと私が結婚することだげが、最善の方法じゃないんじゃないかな」その言葉に聖は、顔をクッションに埋めた。「……でも、あーちゃんをあんな男に奪われるくらいなら、僕の方がいいって……そう思っちゃうんだ」抑えた声が呟く。「聖」私は、手を伸ばして聖の頬をそっと両手で挟んだ。
店を出て、「家の前まで送る」と言う蒼也と並んで歩く。「ねぇ、蒼也。さっきの話だけど……なんで、あんなタイミングであんな大事なこと言うの?」寄り添って並木道を歩きながら、思い出したように尋ねた。「……はぁぁぁ」蒼也は、深いため息をついて立ち止まった。また、眉間に皺が寄っている。「聖ちゃんが、本当は朱莉のことをそういう目で見てたんだと思ったら……先に言わなきゃって、焦ってしまって」「ふぅん」普段は落ち着いている彼が混乱している姿が、妙に新鮮で少し楽しい。「今日は何の準備もしてなかったのに……あぁ、もう、俺はほんとにどうしようもない」 「ぷっ……あははは」 「笑い事じゃない」 「だって、蒼也が面白いんだもの。あははは」普段は、何事にも動じないような雰囲気を出しているのに、自分の前でだけこんな姿を見せる彼に、どうしようもなく愛しさが込み上げてしまう。「とにかく……聖ちゃんが俺を許してくれたら、その時にちゃんとする」自責の念に駆られて落ち込んだ表情を見せる蒼也の腕に、そっと自分の腕を絡める。「そうねぇ。何年後になるか分からないけど、待ってるから」 「その時は……いい返事を聞かせてもらえる?」 「それは……今のところ、なんとも。ひーちゃんに先にプロポーズされちゃったしね」蒼也がまた立ち止まり、真剣に顔を覗き込んでくる。その表情が普段の冷静さを欠いていて、再び笑いがこみ上げる。「ねぇ、蒼也。ひーちゃんも冷静になったら、気持ちに変化があると思う」蒼也は小さく息を吐き、絡めていた腕を滑らせて私の手を取ると、自分のコートの中に押し込んだ。「……ゆっくり待つよ。大丈夫、耐えられる」最後の言葉は、自分に言い聞かせているように聞こえた。「ほんと、こういうのは……殴られるより堪えるな」電車に揺られながら、並んで夜景を眺める。 黙って寄り添っているだけで十分だった。 最寄り駅に着いて外に出ると
蒼也は、ためらいがちに、世話を焼くように聖に話しかけたが、聖は一切無視して黙々と食べ続ける。返事をするのは、私かキヨの言葉にだけ。重苦しい空気の中で、それでも料理はどれも美味しかった。「さて、美味しいもんも食べたし。聖、ちょっとは落ち着いたんちゃう?」お茶が運ばれてきた後、キヨの声に、聖がふぅっとため息をつき、顔を上げた。「さっきの話やけど……聖はホンマに姉ちゃんと結婚したいんか? やけくそで言うたんちゃうの?」「やけくそなんかじゃないよ。ずっと考えてたって言ったでしょ」一切の視線を蒼也に向けることなく、聖は真剣な表情でそう言う。「ひーちゃんは、私のこと、そんなふうに思ってたの?」私にとって聖は、可愛い弟で唯一の家族。本当の家族になれたらいいのに、と願ったことはあっても、夫婦になりたいと考えたことはなかった。もし聖がずっとそんな気持ちを、私に対して抱いていたのだとしたら……私はあまりにも鈍感すぎる。「別に、あーちゃんをエロい目で見てたわけじゃない。でも、そういう選択肢もあるなって思ってた」そう言って、この店に来て初めて視線をやり蒼也を睨む。「あーちゃんを捨てたクセに。そんな奴が、今さら何を言ったって許せない。だったら、あーちゃんは、僕と結婚したらいい。本当の家族になればいいと思う。あんたなんかにやるもんか!」蒼也の表情に苦悩がにじむ。「僕とあーちゃんがどうやって生きてきたか、蒼さんに話したことあるよね。僕たちがどんなふうに捨てられてきたか、どれだけあーちゃんが苦しんできたか。あんたには、教えたのに」聖が呼吸を整え、鋭い目で言葉を突きつける。「あんたがいなくなった時、あーちゃんがどんな思いでいたか知らないだろ。今度はあんたが捨てられたらいい。人を簡単に捨てる奴は、また同じことをするよ。絶対に信じられない!」言い捨てて立ち上がると、聖は泣きながら個室を飛び出していった。 腰を浮かせた私に、キヨが目配せをして聖の後を追う。「……ひーちゃんの気
「ひーちゃん、ど、どうしたの?」凍り付いた空気の中、縋りつく聖の顔を見ると、唇をぎゅっと嚙みしめていた。 その可愛い唇に傷がつきそうで、胸が痛む。「ずっと考えてた。あーちゃんと結婚したいって」聖は、私の腕にしがみついたまま、ぽとりぽとりと膝に涙をこぼし始めた。「このまま、あーちゃんが誰とも付き合わず、ずっと一人のままだったら、絶対に言おうって思ってた」キヨが我に返ったように声を上げた。「ちょ、ちょっと待って。聖は、姉ちゃんのこと好きやったん?」 「あたりまえじゃん。あーちゃんが世界で一番好き」――聖の「好き」って、そういう意味だったの?「え?じゃあ、 俺のことは?」 「……恋人として好き」場の空気が再び固まる。「ごめん。俺、頭悪いから整理させて。聖は、自分の姉ちゃんと結婚したいってこと?」 「そうだよ。こんな“おっさん”にあーちゃんを渡せるわけない」聖が、蒼也の方をキッと睨みつけた。 なんともいえない空気の中、カタカタとふすまが開き「お鍋のご用意をしますね」と店員が声をかける黙って鍋の準備を見つめていると、ふと蒼也の沈痛な表情が目に入る。 店員が去り、私は聖を見つめ直した。「ひーちゃん……私と結婚したかったの?」 「そうだよ。だって……」聖の瞳がまた潤む。「あーちゃんと僕は、本当の家族じゃないじゃん」言いながらボロボロと涙を流す。涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔さえ愛おしい。「あのクソ野郎とクソばばぁがちゃんとしてないから、僕とあーちゃんには繋がりなんてない」真っ赤な顔でグズグズと鼻をすすりながら泣く聖を見て、胸が締めつけられる。進学や就職のたびに書類に記される、遠い母親の名前。 私と聖の間には法的な繋がりが何もない。 もしどちらかが大病をしたら――そう考えては、ずっと胸の奥で不安を抱えて生きてきた。「だから、あーちゃんがこいつと結婚し







